ユーモア刑法
僕の友人が、僕の目の前で、ユーモア刑法320条に規定される「男なのに乙女座罪」を犯したとして現行犯逮捕された。
日頃からよく冗談を飛ばす男でユーモア刑法に抵触する事もしばしばあったが、彼は「警察が聞いている訳でもないし」とくだらない冗談を止める気がさらさらなかった。
まさか、合コン相手の女の子が正義感溢れる婦警だとは思わなかったのだろう。彼は自己紹介で「俺、男なのに乙女座なの」と言った直後、逮捕された。
僕は彼がボケたとき「お前は女々しいし、妥当だろ」とツッコもうかと思い、実際に喉元までツッコミが出かけていたが、ツッコんでいたら幇助罪で逮捕されていただろう。婦警の逮捕が息もつかせぬ素早いもので助かった。
ユーモア刑法のおかげで、たしかに世の中からくだらないユーモアは消え去り、高尚な笑いがより評価されるようになった。
特別な免許を有しない者が「からの〜?」と無茶振りをした場合、最悪死刑になる。お陰で、居酒屋で「からの〜?」を連発する大学生は絶滅した。
ただ、人々は必要以上に無口になってしまった。喋れば罪を犯してしまうおそれがある。まさに「口は災いの元」を体現した社会になってしまったのだ。実につまらない社会だ。
つまらないものを排斥しようとする法律が、つまらない社会を作り出している。
僕はもとより、この矛盾に腹を据えかねていたが、友人の逮捕をきっかけに「テロ」を起こすことにした。
「テロ」と言っても、文字通り「つまらない」ものだ。
それだけである。
そして、ある夏の晴れた日、計画通り僕は叫んだ。
ただ、「今でしょ!」と叫んだところ、警備の警官が呆気にとられて立ち尽くしていたので、もう一度叫んでやった。僕の生き様に刮目せよ。
二度目の「今でしょ!」が終わるよりも前に警官は僕に向かって駆け出し、終わると同時に僕は取り押さえられた。
僕は自分を取りおさえている警官に向かって、最後っ屁として「ゲッツ!」と叫んだ。警官は反射的に「それは俺の台詞だろ」とツッコんだ。
この最後のやりとりで、僕には「今でしょ罪」に加えて、重罪である「ゲッツ罪」が成立し、僕を捕まえた警官にも幇助罪が成立した。
僕のテロで世の中は少しも変わらないだろうが、嘲笑にしろ失笑にしろ、笑いは生まれるだろう。
僕は死刑になる。間違いないっ!でもそんなの関係ねぇ!ワカチコワカチコ!